私たちは、いつまで「ステイホーム」を続ければいいのか――
毎日、発表される新規の感染者数に一喜一憂している人も多いのではないだろうか。
5月6日が期限となっている緊急事態宣言。政府は、対象地域を全国としたまま、1か月程度延長する方向で調整を進めている。
では、どうなれば「解除」できるのか。判断のポイントを、ズバリと聞いた。
(安藤和馬)
鍵となる3つの指標
専門家会議によると、ポイントとなる指標は大きく3つだ。
(1)感染状況 (2)行動変容 (3)医療体制
専門家会議は、この3つを分析しながら、総合的に評価することにしている。
解除のポイント(1) 感染状況
▽新規感染者数、▽累計感染者数、▽倍化時間、▽感染経路が分からない割合、▽実効再生産数などだ。
●ポイント(1)-1:新規感染者数
「新規感染者数」は国や自治体が毎日発表している。
(まとめたサイトはこちら)
東京都の場合、宣言が出された4月7日は79人。17日に201人に増えたが、これをピークにその後は200人を超えることはなく、100人を下回る日も出てきた。
全国の新規感染者数は、4月7日は360人だったのが、11日に719人でピークとなり、4月下旬は200人台で推移している。
自治体別に見ると、大半の都道府県が減少傾向にあるが、北海道など4月後半にかけて増加傾向がみられ、減少傾向とはいいにくい自治体もある。
「死者数」の推移も重要な指標だ。
国内の死者数は、宣言が出た4月7日は1人、累計109人(クルーズ船含む)だった。それが4月29日は22人、累計448人(クルーズ船含む)となった。
海外と比べると少ないが、死者数は増えている。
●ポイント(1)-2:倍化時間(※倍加時間とも)
「倍化時間」は、英語の「doubling time」を訳したもの。
累計の感染者数が2倍になるまでの日数のことを指す。
専門家が最もおそれている「オーバーシュート」(爆発的感染)は、感染者数が2倍、そのまた2倍、さらに2倍と、「指数関数的」に増えていく状態だ。現在、国内ではオーバーシュートは起きていないが、この「倍化時間」が2~3日となると、オーバーシュートと判断される。
専門家会議では、東京の4月上旬の「倍化時間」は5日だったとしている。
「倍化時間」の正式な算定方法は明らかにされていないが、東京では、累計の感染者数が500人に達したのが3月31 日。5日後の4月5日には1000人を超えた。その7日後の12日には2000人を超えた。4000人に達したのは、その16日後の28日だった。
感染者が倍になる時間が伸びるほど、感染拡大のペースが落ちていることは見て取れる。
●ポイント(1)-3:感染経路が分からない割合
「感染経路が分からない患者」を、専門家は「孤発例(こはつれい)」と呼んでいる。
3月までは、どこで感染したか、誰と接触したかをある程度、追跡できていた。しかし、4月に入ると、東京では感染経路が分からない患者が6割以上を占めるようになり、8割を超える日もあった。
4月下旬は、4割ほどになっている。
(どれほど下げればいいかは、記事後半の西浦教授のインタビューを参照)
●ポイント(1)-4:実効再生産数
「実効再生産数」は、ある1人の感染者が何人にうつすのかの平均値だ。
西浦教授によると、3月下旬の東京の推定値は1.7。この数字が1.0を下回れば、新規感染者数が減少に転じるとされている。
ポイント(2) 行動変容
試算を行った西浦教授によると、8割削減できれば、宣言後1か月で確定患者数の減少がデータ上にはっきり見えるという。5月6日ごろには効果が目に見えてくるというのだ。
一方、削減率が8割に届かないと、感染者数を減少させるためにはさらに時間を要するという。
「削減率が7割だと感染を抑えるのに2か月以上かかる」と見る専門家会議のメンバーもいる。
では、どうやって8割削減を証明するのか。
その物差しが22日の専門家会議の提言で示された。
人の移動の流れを表す「人流」と、接触数を示す「接触率」の2つの指標で見るという。
●ポイント(2)ー1:人流
「人流」は、主要駅や繁華街での人出のことだ。
携帯電話会社が提供したデータが、内閣官房の特設サイトや、NHKのホームページで公開されていて、私たちも毎日チェックできる。
(サイトはこちら)
●ポイント(2)-2:接触率
もう一方の「接触率」は、携帯の位置情報データを使い、時間あたりの「接触」を数字で示すものだ。
22日に示された渋谷駅周辺のデータでは、4月17日の接触率は、1月17日と比べて夜は最大80%減少していた。しかし、昼間は最大60%程度の減少にとどまっている。
「人との接触8割削減」は、「人流」と「接触率」のトータルで測る指標だ。これを達成できていれば、宣言の解除に向けた材料になる。
ポイント(3) 医療体制
特に地方は都市部に比べて、医療体制が脆弱だからだ。油断すると一気に医療崩壊が起きかねないと懸念している。
医療体制は、前出の感染者数や接触率のように、定量化した指標があるわけではない。
▽病床のひっ迫具合や、▽重症者が入院できているか、▽軽症者が宿泊施設に移っているか、▽検査がスムーズに行われているか、▽マスクやガウン、人工呼吸器などの空きが出ているか、など各地の状況を見て判断するという。
NHKは、新型コロナウイルスに対応する病床数と入院患者数を、都道府県ごとに調べ、ホームページで公開している。
(サイトはこちら)
専門家会議メンバーで川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は、「医療体制は最大の考慮すべき点だと思う。医療が崩壊するとオーバーシュートにつながる。2009年の新型インフルエンザ大流行のときには、日本は患者数は多くても死亡者が少なく、医療体制はなんとか通常のままで済んだ。しかし、今回は通常の医療体制では間に合いそうにない状況になっている。ベッドが飽和状態に近づいている地域は、宣言を継続することもありえる」と指摘する。
専門家はどう見るか
●北海道大学大学院 西浦博教授
A:接触の8割削減に加え、感染者数と医療提供体制が重要な点となる。感染者数を減らして感染源が追えるところまで戻す。
Q:どの程度だと追えるのか?
A:1日当たりの確定患者数が10人程度の場合は東京都内でも接触者を十分追跡できていたので、そのレベルまで下げたい。また、医療機関の受け入れ体制が整うことを見て行動制限を解除するかどうか検討する。
Q:解除のイメージは?
A:学校や企業は段階的になるだろう。出勤は50%削減に戻す、30%削減に戻す、というように少しずつステップを踏みながら実施していく。今すぐにこれまでと同じ生活が戻ってくるわけではない。向こう1年間は多かれ少なかれつきあっていかないといけない。
●川崎市健康安全研究所 岡部信彦所長
A:大型連休明けに一気に元の生活に戻ることは、今の状況ではありえないのではないだろうか。段階的な縮小みたいな形で、必要なところへは自粛を求めることになるのではないだろうか。
Q:解除・延長は、全国一律ではなく地域ごとが望ましい?
A:緊急事態宣言の対象は当初7都府県だったのをあとから地域を増やしたように、逆のこともあると思う。地域別にしていったほうがいいと思う。
Q:特定警戒都道府県に指定したところは延長し、それ以外は解除するということは?
A:それもあるかもしれない。でも、状況を評価してからの話なので、そうなるかどうかは今の段階ではわからない。
Q:このウイルスとは1年くらい付き合わなければいけないのか?
A:1年ではなくもっと長く付き合う可能性はある。しかし、流行の波が来るたびに同じことを繰り返すのではなく、行政も専門家も一般の人も、賢い付き合い方を考え、それを生かしていくことが必要でしょう。
●諮問委員会 尾身茂会長(専門家会議副座長)
A:延長するかどうかは、今は答えられないが、ポイントはやはり感染の状況がどこまで下がったのか、それを根拠をもって言えるかだ。
Q:感染者数が多い都道府県と、少ないところとで場合分けをすることもある?
A:そういう考えもあるでしょう。解除するときもわかりやすくないとだめだ。100%の解はないが、『なるほどそうなのか、それなら分かった』という根拠を示して、科学的にも社会学的にも説明できなければいけない。いったん解除した宣言を、またかけることもありうる。その時、今のような8割削減をやるのかどうかは分からないが。仮に1か月で終われば、後は何でもありにはならない。これは1回だけでは終わりませんよ、心の準備をしてもらいたい。
Q:解除にあたっては、海外の例も参考にするのか?
A:中国やシンガポールでは、行動制限の解除後も、ライブハウス、接待を伴う飲食店などは休業を続けた。これを参考にする。解除後もハイリスクな場所や、地域間移動を伴うイベントは自粛要請を継続する可能性がある。
Q:8割削減は厳しい目標だ。
A:目的は感染者数を減らすことで、そのための手段・条件なわけだ。どういう行動をすれば、どうなるのか、日本人全体が学んでいくことが大事だ。「オーバーシュートを起こさずに、ロックダウンもかけずに感染を抑制する」、日本はこれができる可能性がある。仮にできたとすれば自信になる。
毎日発表される感染者数などの数字は、私たちの2週間前の行動を反映している。このため、尾身氏は「緩むとすぐに増えかねない」として、大型連休中も外出の自粛を続けるよう、重ねて呼びかけた。
「人との接触を減らすための10のポイント」を参考にしてほしいという。
延長か、解除か、結論をまとめると…
●現状
・人との接触8割削減は、まだ達成されていない。
・感染者数は、東京、大阪、福岡などは減少傾向に転じているが、予想より減少のスピードが遅い。
●判断に向けて
・「人との接触8割削減」など3つの指標を分析し、地域ごとに評価する。
・全国一斉に全面的に解除するのは難しい。
・特定警戒都道府県と、それ以外で対応が分かれる可能性がある。
(特定警戒都道府県=重点的に感染防止の取り組みを進める地域:現在13都道府県)
●今後は
・解除したとしても、すべての活動が再開できるわけではなく、夜の飲食店や大規模イベントなどは一定の自粛要請は続く。
・経済活動の再開も段階的に行うことになる。
・今後1年単位での長期戦を覚悟しなければならない。いったん解除しても、再び流行の波が来たら、再度宣言を出すなど厳しい措置をとることもあり得る。
専門家会議は、あくまで科学的な知見や数値に基づいて判断する姿勢だ。一方、経済や社会に与える影響は、専門家会議の範囲外となっている。
政府は、専門家が示す科学的な評価に加え、経済的・社会的な影響も考慮して、最終的に政治判断を行う。
自分の地域はなぜ延長なのか、どうなれば解除できるのか、多くの人が納得できる説明が求められている。
政治部記者
安藤 和馬
2004年入局。山口局、仙台局でも勤務。去年8月から厚生労働省クラブキャップ。新型コロナウイルスの取材を続ける。
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May 01, 2020 at 10:34AM
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