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Tuesday, September 29, 2020

貧困対策で現金支給「無条件」 米各地の試み - Wall Street Journal

貧困世帯に現金を給付する実験をしているカリフォルニア州ストックトン市のマイケル・タブス市長

Photo: nick otto/Agence France-Presse/Getty Images

 米カリフォルニア州ストックトン市は昨年、ある社会実験を始めた。低所得地域の無作為に選ばれた125世帯に月500ドル(約5万3000円)を18カ月間にわたって支給するというものだ。対象者の健康状態や経済状況への影響を非対象者と比較することになっている。

 総費用380万ドルのこの実験はマイケル・タブス市長(30)の発案によるもので、「エコノミック・セキュリティー・プロジェクト」などからの寄付金によって実現した。同プロジェクトは、フェイスブックの共同創設者クリス・ヒューズ氏らが所得保障事業への資金拠出を目的に立ち上げた。

 新型コロナウイルスの感染拡大で多くの世帯の経済的なもろさが浮き彫りになる中、一部の学者や当局者らの間では米国のセーフティーネットを見直す動きが出ており、ストックトン市はその先頭に立っている。彼らの主張によると、最善の貧困対策は貧困世帯に現金を給付し、その使途を各世帯の判断に任せることだ。

 この考えはユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)と関連している。大統領選挙予備選の民主党候補者だったアンドリュー・ヤン氏の主張によって広く知られるようになった政策だ。ただし、UBIが所得水準に関係なくすべての市民に定期的に現金を支給するのに対し、ストックトン市の実験は地域の貧困家庭を対象にしている。

 こうした所得保障制度が全国で展開されれば、就業や求職を条件としないセーフティーネットが大幅に拡充されることになる。フードスタンプ(低所得者向け食料配給券)、生活保護、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)、勤労所得控除、失業給付には、いずれも労働に関する何らかの要件がある。

 タブス市長は、現金支給により、景気後退で打撃を受けている人々が生活費を賄いやすくなっていると語る。暫定的な調査結果によれば、支給された現金の半分以上は、食費と公共料金の支払いに利用されていた。支給対象となったマグダレーナ・タイターノさん(64)は、薬代や電気代のほか、事故で廃車になった自家用車の買い替えに給付金を使ったという。

 タブス市長は「人々が良い判断を下すと信用していいことが分かった」と述べる。

ストックトンでの実証実験に刺激され、各地の市長20余人が全国レベルでの所得保障を提唱する新グループに参加を表明

Photo: Rich Pedroncelli/Associated Press

 この実験は今年7月に終了する予定だったが、新たな寄付金があったため来年1月まで延長されることになった。

 この手法に批判的な人々は、問題となり得る幾つかの点を指摘している。

 1点目は、特定の所得水準以下の人々だけが給付を受けられ、労働要件がない場合、対象者が給付を失うことを恐れて、より高い給与の職を得ることや就業自体をためらう可能性があることだ。その結果、労働が減り経済の活力が損なわれる恐れがある。

 メリーランド大学のダグラス・ビシャロフ教授(公共政策)は「人々に無条件にお金を与えると、行動が変わる。われわれが望まないインセンティブを生み出すことになる」と指摘する。

 アラスカ州内と、ノースカロライナ州で東部チェロキー族を対象に実施された現金給付の実験では、いずれも労働へのマイナスの影響は見られなかった。無条件の現金給付に似ている宝くじの賞金に関する研究では、賞金が比較的少額の場合はどれだけ働くかに影響が出なかったが、多額の場合には影響があった。

 カリフォルニア大学バークレー校の経済学者、ジェシー・ロススタイン氏は、他の所得の増加に応じて段階的に給付を縮小していくことで、こうした労働阻害要因を抑制できる可能性があると述べる。

 「その段階的な給付縮小を、労働阻害要因を生み出すことなく設計する方法はない。ただ、うまく設計されれば、大きな影響は出ないだろう」

 問題の2点目は、全国的な所得保障には高額の費用がかかることだ。メリーランド大学の経済学者メリッサ・カーニー氏とシカゴ大学の経済学者マグネ・モグスタッド氏によると、年収が2万ドル未満の個人と世帯年収4万ドル未満の夫婦に年間1万ドルを支給し、支給額を長期間で段階的に縮小した場合、年間の国内総生産(GDP)の5.9%近くに相当する1兆2000億ドルのコストがかかる。これは連邦政府が2019年に社会保障に費やした額を上回る。このコストは財政赤字の拡大、大幅な増税、財政支出の大幅な削減のいずれかによって賄わなくてはならない。

 「それがいかに高額かや政治的な現実を踏まえると、(既存の)政府のセーフティーネット策に加えてこれを行うのは実現性が低い」とカーニー氏は言う。「つまり、どのセーフティーネット策と引き換えにするかという問題になる」

 議会が近いうちに所得保障を実現することは想像しがたい。しかし、3月にコロナ救済策として、大半の国民を対象に1回限りで最大1200ドルの給付を行うことが認められたことは、少なくとも一定の状況においては無条件の支援があり得ることを示唆する。

 ニスカネン・センターのエコノミスト、エド・ドーラン氏は「人々が1200ドルの小切手をたばこのような物の購入に使うかどうかについて、心配はそれほどなかった」と指摘する。

 ストックトンでの試みが人々の労働意欲に影響を及ぼしたかどうかは明らかでない。ただ、一時的な試みとして実施されたため、恒久的な制度に比べると行動の変化は小さいかもしれない。

 ストックトンでの実証実験に刺激され、各地の市長20余人が全国レベルでの所得保障を提唱する新たなグループに参加を表明した。参加した自治体にはカリフォルニア州ロサンゼルスなど大都市もマサチューセッツ州ホリヨークなど小都市もある。

 同グループの一員でミネソタ州セントポールのメルビン・カーター市長は「コロナに伴う経済状況は、われわれがかつて経験したことのない形で全国のコミュニティーをつまずかせた」と述べた。

 カーター市長によると、セントポールはストックトンと似た実証実験を行うため、資金支援者との間で協議を行っている。

 他の試みも近年行われてきた。カリフォルニア州サンタクララ郡は里親制度を経て自立する若者に対し、1年間にわたり月額1000ドルを支給している。ニューヨーク州ハドソン市は、アンドリュー・ヤン氏が設立した非営利団体から一部資金を得て、無作為に選定した住民に月額500ドルを5年間支給する実証試験を始めた。

 現在のところ、実証試験の大半は比較的小規模かつ一時的なもので、慈善活動に頼っている。しかし、ドーラン氏は「これら一つ一つの試みで少しずつデータが増えていく」と語った。

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