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Friday, March 20, 2020

武者陵司 「パンデミックと市場パニックの分析と展望」<前編> - 株探ニュース

武者陵司(株式会社武者リサーチ 代表)

●欧米非常事態、中国では感染終息が視野に入ったか?

 中国発の感染は欧州に蔓延した。イタリア、スペインでは武漢型の医療崩壊が起き、米欧は非常事態体制となっている。米国による対欧州渡航禁止、EU域内での移動制限と域内への渡航禁止などは、経済大動脈の遮断ととらえられ、市場にショックを与えた。 新型コロナウイルス感染による世界需要の落ち込みはこれから深刻化するだろう。

 しかし、対新型コロナウイルス戦争の先に希望があることも確かである。新型コロナ感染という天災さえ克服されれば、経済と市場は大きく落ち込んだところから鋭角的に回復に向かうだろう。中国や韓国、北海道などの先行事例を見れば、欧州でもここ1~2カ月で感染がピークアウトし治癒者が感染者を上回ることは見えている(南半球やアフリカ新興国などでの感染伝播リスクはあるが)。

 この天災は全世界の非常事態共同戦線を形成させた。各国の非常事態宣言に次ぎ、米国の1%利下げとQE(量的金融緩和)の復活、1兆ドル規模の財政出動に見られるように、各国当局は何でもありの政策総動員を繰り出し始めた。欧日でも封印されてきた財政出動が一気呵成に出てくるだろう。

 年後半は、後述の三重の押し上げ圧力も想定できる。

●日本株式安全領域(margin of safety)に突入

 留意すべきは1カ月弱で3割というパニック売りの結果現出した、株式の極端なアンダーバリュエーションである。ことに日本株は配当利回りが3.1%、PBR0.9倍と、将来にわたって企業価値が棄損され続けることまで織り込んだ。ウォーレン・バフェットの師匠ベンジャミン・グレアムが説いた、何が起こっても絶対的に割安な安全領域(マージン・オブ・セーフティ)に奇しくも入ったのである。この割安さを是正するアニマルスピリットから、復興は始まる。企業と投資家にはこの危機をチャンスととらえる覚悟が求められる。

(1)対新型コロナ戦争の勝利はいつか

●全ては感染制圧にかかっている

 株価がいつ、何により底入れするかは、連鎖感染が遮断されるかにかかっている。基本シナリオは、今年前半で感染終息、後半は経済回復、株価上昇であろう。回復が緩慢か急速かは意見が分かれるが、急回復の可能性が高いのではないか。(A)パンデミックによる生産急減で在庫払底、(B)繰り越されているペントアップディマンド(繰越需要)の発現、(C)各国政府の何でもありの政策総動員による刺激効果、の3つが想定されるためである。

 他方、(A)感染が完全に制圧できず人的接触に対する敬遠が続く、(B)蒸発した需要(特に人的接触が必須の航空、観光、飲食、エンタメ等)の回復がスロー、(C)企業破綻など悪循環も尾を引く、の3つの理由から緩慢回復シナリオもあり、どちらに転ぶかは、パンデミック制圧と繰り出される各国政策にかかっている。

●中国、韓国、北海道の先行事例

 いま欧州で猛威を振るっている感染の制圧には、ほぼ新規感染者がなくなった中国、感染者急減の韓国、日本の北海道などの先行事例が参考になる。北海道の感染と治癒者の推移をみると、緊急非常事態体制が打ち出されてから2週間で感染者はピークを打ち、それから1~2週間で治癒者が増加し始め、数週間で現在患者数が高原状態に入るということが分かる。

 新型コロナウイルスは感染力は高いが、軽症者8割、重症者2割のうち半分も短期で回復、死亡者の多くは高齢者か持病がある人と言われている(日本政府感染症対策本部専門家会議 副座長 尾身茂氏)。また、致死率は1~2%と、不治の病と言われたペストやコロナ、サーズ(10%)、マーズ(35%)と比べれば毒性の低い感染症である。また、中国政府で専門家チームを率いる鐘南山氏のように、温かくなれば感染力が弱まる、との指摘は完全に否定されているわけではない。

(2)株価はいつ底入れするのか

●史上最高速の株価暴落

 それにしても3週間で3割という世界株価暴落は、史上最速であった。このスピードはリーマンショック(2008)、ブラックマンデー(1987)、大恐慌(1929)年を大きく上回っている。まさに市場のメルトダウンが起きているのである。株価は大不況を暗示している、と人々は恐怖に身構えている。恐怖指数といわれるボラティリティ指数(VIX)は、リーマンショック時に並ぶ史上最高水準まで高まった。ただ、経済実態が崩壊しているわけではなく、金融市場全体ではパニックというほどではない。いまのところクレジット市場のリスクプレミアムは落ち着いているし、金融市場のストレス指数の上昇は限定的である。

 なぜこんな暴落が起こったのか。

1)意外性・無防備→戦後の米国リセッションは全てインフレ抑制のための金融引き締めが起点、そうではない初めてのリセッションになる可能性。

2)不確実性→敵は自然(ウイルス)故にいつ終息するか、人的接触遮断、需要蒸発、資金不安、金融困難・破綻などの悪循環が起きるか否か、全く読めない。圧倒的に売り方優位が加速した。

3)市場の脆弱性→市場の慢心、2020年は間違いなく景気回復の年との確信は高まっていた。2020年に米国がリセッションに陥るという昨年半ばまでの悲観論は今年初めの時点でほぼ消えていた。故に大半の投資家はリスクテイクの決め打ちをしていた。米国株価はPER25倍と割高化していた。

4)悪循環→投資家における損失発生、リスク回避・流動性確保の売り連鎖が起きた。

●ボラティリティの高さに対する過小評価

 以上のうち特に重要なのは、市場の脆弱性であろう。人々が最も無防備であったのは、ボラティリティがこれほどまでに高まるのだ、ということに対する警戒心の無さにあったのではないか。換言すれば、いまや我々はかつてなくボラティリティの高い時代を生きているという認識の欠如である。

 なぜ、ボラティリティが高いのだろうか。その上限はどれほどなのか。一般的解釈は、(A)膨大な資金余剰・投資資金の存在、(B)世界の資金が一つのプールに集中し、巨大な投資家がさまざまな資産クラス間の資金移動を瞬時に行うこと、(C)超金融緩和・低金利政策の下での投機の高まり、などの理由が指摘されている。

●株式の異常な超過リターンがもたらした高ボラティリティの時代

 それらはいずれも正しいが、よりボラティリティを高めている根本原因は、異常な株式リスクプレミアムの高まりではないか。2000年のITバブル崩壊以前は株式(S&P500)の益回りは米国10年国債と同水準かつ完全に連動していた。米国市場では債券と株式の間に壁がなく、相互間の資金移動により裁定的投資が日常化していたといえる。しかし、2000年のITバブル崩壊、さらには2008年のリーマンショック以来、両者の乖離が極端になっている。10年国債利回りの大幅な低下により、両者の乖離拡大が定着しているのである。

 なぜ合理的であるはずの市場においてこれほどの不等式が恒常化しているのだろうか。

 株式益回り(5.2%)>国債利回り(1.5%)

 それは高い益回りの株式に大きな固有の投資コストがあり、株式投資の最終リターンを国債投資並みに引き下げていると解することができよう。そして、固有の投資コストがボラティリティなのである。

 株式益回り-ボラティリティコスト=国債利回り

 つまり、株式の債券に対する超過リターンは、株式で発生するボラティリティコストによって相殺されているといえる。こう考えれば、株式の益回りと国債利回りの乖離が大きければ大きいほど、ボラティリティが高まるといえる。

 金利が低く超過リターンが大きいとなれば、投資家はレバレッジを高めてより大きな投資成果を追求する。その高レバレッジポートフォリオの高リターンは時折到来する市場の大波によって逸失する。このボラティリティコストを通して、株式に存在する超過リターンはさまざまな市場参加者、金融機関、投資家に再配分される、というメカニズムが内在されている、と考えられる。2018年2月のVIXショックなど、ファンダメンタルズでは説明がつかない市場の暴落はそうしたメカニズムによるものと考えられる。

●高ボラティリティは暴落後の高騰を準備する

 GOOD NEWSは、ボラティリティは株式の本質的価値や株価水準には無関係だということ、つまりボラティリティ要因に基づく暴落は、そのあとの株価高騰を準備するということである。2018年2月、2018年10月の暴落は、その後の急反発をもたらし、一年も経たないうちに暴落直前の高値が奪回された。今回の空前の株式暴落にそのような要素が働いているとすれば、感染がピークアウトし経済回復の展望が見え始めた時点で、株式は鋭角的反発を見せるだろう。

<後編>へ続く

株探ニュース

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