卓越した技術・味覚・知識を持つ料理界のトップランナーが、行きつけの飲食店を明かす連載「大御所シェフのいつものごはん」。今回の大御所シェフは、フレンチレストラン「ブション・ドール」のオーナーシェフ東敬司さん。オススメの店は東京・中目黒にある 「東京へぎそば匠」(以下、匠)です。
今回の大御所シェフ
東 敬司さん(あずま・けいじ)
1953年、北海道生まれ。辻調理師専門学校卒業。東京・霞ケ関「キャッスル」で6年間修業後、司厨士スイス派遣団に加わり渡欧、スイスで1年、フランスでは4年、「トロワグロ」など数々の名店で経験を積む。帰国して当時、都内で最も客のフランス人率が高いと言われた六本木「イル・ド・フランス」のシェフを14年つとめ、アークヒルズ「ル・コンセール」を経て2004年に代官山「シェ・アズマ」、09年に銀座「ブション・ドール」、14年に中目黒「ブション・プロヴァンサル」開店。16年に店舗を銀座に統合した。
オススメの飲食店
東京へぎそば匠 中目黒店
毎日届く産地直送のそばを使った、新潟県・十日町地方の郷土料理「へぎそば」が食べられるそば店。新潟県の郷土料理を中心に、酒が進む料理も充実。各店の店長は利き酒師の免許を持ち、好みに合わせてお酒を提案してくれる。
豪快な刺し身を引き立てる繊細なツマ
東さんが営む「ブション・ドール」のブションとは、郷土料理を食べさせる庶民的な食堂のことで、美食の街リヨン独特の呼び方である。
ブション・ドールの定番は、パテ、リエット、オニオングラタンスープ、コンフィ、カスレ(白いんげん豆と肉類の煮込み)といった普段着のフレンチ。どの料理も出している店は多いが、東さんのはひと味違う。こってり濃厚というわけではないのに、味わいにどっしりとした重量感がある。
「しっかりだしをとる、しっかり炒める、しっかり煮るなど、当たり前のことをしているだけ」と東さんはいうが、しっかりの勘どころを知る円熟の腕がなせる違いだろう。同じオニオングラタンスープも、一度ここで食べるとよそのが物足りなく感じてしまう。
「フランス人よりフランスらしい料理の作り手」との定評が高い東さんだが、自ら好んで食べに行くのはカウンターのある和風居酒屋。まかないは午前と午後とも洋風なので、仕事帰りに軽く食べるのは「やっぱり和食が落ち着く」。おいしい刺し身で一杯飲んで、1日を締めくくるのが楽しみだ。
「匠」は、自宅のすぐそばにある。そば主体の店とばかり思っていたが、あるとき外の黒板に刺し身が書かれているのに気づいて入ってみると、思いがけずいい魚をそろえていた。調理も非常にていねいで、とたんに気に入って通うようになった。
どの魚も惜しみない厚切りで、ツマも薬味もそれぞれに合ったものが添えてある。「刺し身は豪快だけどツマはきれいに切ってあって、繊細でしょ。生野菜の重要な供給源だから、残さずきれいに食べますよ」と笑う東さん。
若い時分は居酒屋のカウンター越しに職人の手元をのぞき込んでは、和食の魚のおろし方などを覚えたが、いまも匠でツマと魚の相性を再認識することがしばしばだという。
家では再現できない 名物・じゃんぼ油揚げ
豊富な料理メニューのなかでも人気があるのは、へぎそばのふるさと、新潟県の郷土料理だ。「のっぺ」は新潟を代表する味のひとつ。根菜たっぷりの素朴な煮物で、家や地方によって味つけや具の取り合わせ、切り方が違う。
匠では、サトイモを中心に、ニンジン、ギンナン、コンニャク、タケノコ、鶏肉などをだしで煮含め、冷製で供している。だしには、基本のかつお節に貝柱と干しシイタケのうま味がきかせてある。根菜はそれぞれ下ゆでし、鶏肉は別に煮て最後に合わせる。このひと手間で汁がにごらず、澄んだ味わいになる。
「田舎風の見た目からは想像できないほど上品。味を決めてから冷やすから、上品さがさらに引き立つんだろうね。サトイモのぬめりで、のどごしもよい。するする入りますね」と東さん。薄味ながら、きりっとしたうま味が野菜の芯までしみ込んで、酒に合う。
郷土料理メニューのいちばん人気が、「じゃんぼ油揚げ」である。栃尾(現在は長岡市に編入)で江戸時代に生まれたという長さ約20センチ、厚さ約3センチもある大きな油揚げに、ネギをあふれんばかりに挟んである。具はネギをベースに、納豆、メンタイコ、自家製甘辛みそのオプションがある。
栃尾の油揚げは、通常の油揚げとはくらべものにならないボリューム感と、薄い皮のパリッとした歯ざわり、厚揚げとは異なる内側のふわっとした弾力が持ち味。いまや全国で有名になり、スーパーでも見かけるようになった。家庭では魚焼きグリルやフライパンで焼くことが多いが、匠では提供する直前にもう一度、油で揚げる。こうすると、余計な油が抜けて食感がさらによくなる。
東さんの感想は、「このパリッ、カリッとした食感は、家では再現できないだろうなあ」。ほどよくしんなりさせたネギとのマリアージュも上々だ。
酒飲みが喜ぶ角煮 他では食べられない卵焼き
郷土料理以外でいちばん人気なのが、豚バラ肉の角煮である。永田町のさる居酒屋で50年前から継ぎ足し、継ぎ足し使っていた秘伝のタレを受け継いで、じっくり煮込んである。
脂のつき具合がよい肉を厳選し、ブロックに切り分けて丹念に下ゆでする。それから半日以上、ゆで汁につけた状態で冷蔵庫で寝かせ、上に浮かんで固まった脂は除去する。こうして必要な脂だけ残した肉を、くだんのタレで4時間ほど煮込む。甘みが控えめで、酒飲みの喜ぶ辛口のタレだ。
リエットやパテなど豚料理の名手である東さんによると、「こういう煮込みは、アクや脂を取りすぎるとつまんなくなっちゃう。上品すぎてはだめで、かといって雑味を残してはいけないのが難しい」。この角煮は、「こってり濃厚すぎず、それでいてバラ肉の醍醐(だいご)味がちゃんと楽しめて上出来」の逸品だ。
卵焼きはそば屋のつまみの定番。注文する人が多いだけに、各店は工夫をこらしている。それぞれ個性があるから、自分にぴったり合う味や焼き具合に出会うのが意外に難しく、東さんは「たかが卵焼き、されど卵焼き」といつも感じている。
匠の卵焼きは、そばつゆベースの味つけ。注文してから焼き、熱々を出してくれる。
「甘いけど甘すぎず、だしもちゃんときいている。何げない料理だけど、この味にするのには経験が必要だよね。なにより目の前で焼いてくれるだけで安心する」
東さんは今年の正月、富良野の実家に帰省するとき、そのころ期間限定でメニューにあったウナギ入りの卵焼きをおみやげに持って帰った。冷たくなってもおいしさはかわらず、酒のさかなとして、一家でおおいに舌鼓を打ったそうだ。
のどごし独特 高級感のある「へぎそば」
へぎそばは、新潟県・魚沼地方の郷土料理である。魚沼地方は古くから麻織物の産地で、のりづけに使われる布海苔(ふのり)をつなぎにそばを打つようになった。小麦粉でつなぐより腰が強くなり、海藻特有の食感が出るのが特徴だ。
同じへぎそばでも、店によって配合などがかなり違う。東さんによると、匠の場合は「ツルツルしていると同時にコリコリ感もあって、コシとのどごしが独特」だそう。
へぎ(折)と呼ばれる器にくるりと巻いて並べる盛りつけの美しさも魅力だ。「きれいなだけでなく、ひと口ずつリズム感よく食べられて、高級感も出る」とのこと。基本のつゆは、新潟と東京のちょうど中間で、甘からず辛からず。他に豆乳ごまだれ、くるみだれ、かも汁なども選べる。
匠は東さんが久しぶりに見つけた「通える店」である。
「おいしい店の条件は、ちゃんとしていること。私たちの世代には当たり前のことをこなせている店が少なくなったけれど、匠はそれを押さえていた。料理長の腕は確かだし、店長は目配りがよく発声も明快。明るい気分にさせてくれる店です」
東さんにとって匠は「当たり前」が健在であることを確認できる、安らぎの場所なのである。
店舗情報
東京へぎそば匠 中目黒店
東京都目黒区中目黒3-5-5 ベルデ中目黒1F
東京メトロ日比谷線、東急東横線「中目黒」駅より徒歩7分
03-3760-0466
営業時間:火~土 17:30~4:00 (L.O.3:30)/日 17:30~23:30(L.O.23:00)
定休日:月・祝
公式サイトはこちら
東 敬司シェフのお店
Bouchon d’Or(ブジョン・ドール)
東京都中央区銀座5-9-5 田創館ビルB1
東京メトロ銀座線、日比谷線、丸の内線「銀座」駅より徒歩3分
都営地下鉄浅草線、東京メトロ日比谷線「東銀座」より徒歩3分
03-3573-0019
営業時間:11:45~15:00(L.O.14:00)/17:30~22:30(L.O.21:30)
定休日:日 ※月1回月曜を含む連休あり
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