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Sunday, May 10, 2020

100万気圧4000度の極限条件下で液体鉄の密度の精密測定に成功 ~地球コアの化学組成推定に向けた大きな一歩~ - 東京工業大学

要点

  • 本研究グループの世界をリードする超高圧高温発生技術と、大型放射光施設SPring-8の世界最高性能の放射光X線を用いて、100万気圧4,000度という極限条件下で液体鉄の密度の精密測定に世界で初めて成功しました。
  • 今回得られた液体鉄の密度は、地球の外核(液体金属コア)の密度と比べると約8 %大きいことがわかりました。このことは、外核が純鉄ではないこと、従来有力な不純物とされてきた酸素ではこの密度差が説明できない(水素など別の軽元素が含まれている)ことを意味しています。これは、地球科学で第一級の問題とされてきたコアの化学組成の見積もりに向けた重要な一歩です(コアの化学組成は地球誕生の謎を解く重要な鍵)。
  • 今回、X線回折データから液体の密度を精密に決定する汎用的な方法を開発しました。今後はこれを用いた密度決定により、外核の化学組成のさらなる制約、マントル中のマグマの移動・集積などを明らかにしていきたいと考えています。

概要

東京工業大学地球生命研究所所長で東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の廣瀬敬教授らの研究チームは、東京大学の桑山靖弘特任助教、熊本大学の中島陽一助教らを中心に、大型放射光施設SPring-8[用語1](以下SPring-8)を利用して、地球の液体金属コア[用語2]の主成分である液体鉄の密度を、100万気圧4,000度という、コアの環境とほぼ同じ超高圧高温の極限条件下で決定することに成功しました。

地球の中心には固体金属の内核、その外側の液体金属の外核があり、ともに超高圧高温下にあります。従来より、液体鉄の密度は観測される外核のそれよりもおよそ10 %大きいとされてきました。しかし、過去に高圧下で行われた液体鉄の測定は衝撃圧縮実験[用語3]によるものであり、誤差が大きいとされてきました。

外核の密度が液体鉄よりもかなり小さいということは、外核には鉄に加えて軽い元素(水素や酸素など)が大量に含まれていることを意味しています。この軽元素の種類や量を特定することにより、地球の成り立ち、具体的には地球を作った材料物質や、コアがマントルから分離した時の状態を知ることができます。しかしそれには、純鉄との密度差を正確に理解する必要がありました。

本研究チームは、レーザー加熱式ダイヤモンドセル[用語5]を使った、静的圧縮実験[用語4]による超高圧高温実験により、地球深部の解明に大きな貢献をしてきました。今回、その開発をさらに進め、SPring-8のビームラインBL10XUにおいて高強度X線集光に取り組むことにより、超高圧高温下における液体鉄のX線回折データを測定しました。また、これまでとは全く異なるアプローチの分析手法を開発することにより、超高圧下における液体鉄の密度の精密決定に成功しました。さらに、ビームラインBL43LXUにおけるX線非弾性測定結果と合わせることにより液体金属コアの全領域にわたる温度圧力条件での液体鉄の密度を明らかにしました。

今回得られた超高圧下の液体鉄の密度は、地球の外核の密度に比べて約8 %大きいことがわかりました。内核の密度のことまで考えると、従来有力な不純物とされてきた酸素ではこの密度差を説明することができないため、水素など他の軽元素の存在[注]が示唆されます。これは、地球科学で第一級の問題とされてきたコアの化学組成の見積もりに向けた大きな一歩になります。

本研究成果は、日本時間4月23日(木)に米国物理学会誌『Physical Review Letters』に掲載されました。また、『Physical Review Letters』誌において、特に注目すべき論文(PRLエディターズ・サジェスチョン)として紹介されました。

背景

地球の液体コア(外核)の主成分は鉄であり、またその密度が純粋な鉄の密度よりもかなり小さいことから、軽い元素が大量に含まれているとされてきました。コアは、地球全体の質量の1/3を占める(外核はコア全体の95 %)ことから、その化学組成を特定することは極めて重要です。それによって初めて地球全体の化学組成が明らかになり、地球を作った材料や形成プロセスを理解することができます。コアの軽元素(不純物)を特定するには、まず鉄自体の密度を正確に知る必要があります。

しかしながら、地表から2,900 km下にある外核は135万気圧4,000度以上の超高圧高温下にあります。圧力が上昇すると鉄の融点も上昇するため、このような超高圧下で液体鉄の密度を調べる実験は、一瞬だけ高圧高温を発生する衝撃圧縮実験を除いて、不可能でした。また、圧力と温度をより正確に制御できる静的圧縮実験においては、液体からのX線回折シグナルを用いて液体の密度を高圧下で測定しようと試みられてきました。しかし、液体試料からのX線回折強度は固体試料に比較して極めて弱く、高圧下で十分な強度が得られないことが大きな問題とされてきました。さらに、液体の密度や構造を精密に決定するためには、現実的には不可能なほど広いX線散乱角度範囲にわたってデータを取得することが必要と従来考えられていました。これらの理由から、高圧下で液体金属鉄の密度は精密に測定されたことがありませんでした。

研究成果

本研究チームは、過去20年にわたり開発改良を続けてきたレーザー加熱式ダイヤモンドセルの開発をさらに進め、これまで1秒ほどしか維持できなかった100万気圧という超高圧下での鉄の溶融状態を、10秒から100秒の長時間安定して保持することに成功しました。この技術革新は、日本が誇る精密加工技術の賜物と言えます。さらに、SPring-8の高強度X線の高集光化に取り組み、液体からの弱いシグナルを観測可能にしました。また、実験データの解析手法についても、限られたX線散乱角度範囲のデータからでも密度を求めることのできる従来とは全く異なるアプローチの解析手法を見いだし、高圧下の液体金属の密度を精密に決定することができるようになりました。

地球の外核の密度は、地震波の観測データより見積もられています。今回得られたコアの超高圧高温条件下での液体鉄の密度は、外核の密度より約8 %大きいということが分かりました。このことは、外核がわずかなニッケルの他に多くの軽い不純物(軽元素)を含んでいることを意味します。さらに、従来有力な不純物とされてきた酸素ではこの密度差が説明できず、水素など他の軽元素が大量に含まれている可能性があることが分かりました。これは、地球科学で第一級の問題とされてきたコアの化学組成の見積もりに向けた大きな一歩です。

今後の展開

コアの化学組成を解明することは、地球がどのような原材料物質からどのようなプロセスで出来たのかを知る上での重要な鍵となります。今後、さまざまな液体鉄合金の密度を決定し、コアの化学組成を解明することにより、地球誕生の謎も明らかになっていくものと期待されます。

さらに、マントル最深部でも局所的に岩石が溶融しマグマ(液体)が存在していると考えられています。また初期の地球はマグマオーシャンに覆われていたとされます。液体は流動性と化学反応性に富むため、マントル内でのマグマの移動・集積を理解することはマントルの化学進化や化学組成異常の分布を解明する上で非常に重要です。レーザー加熱ダイヤモンドセルを用いて超高圧下の液体の密度や構造を決定するという試みは、世界中で30年以上にわたり取り組まれてきましたが、これまで成功していませんでした。本研究における技術革新により、今後高圧下での液体の研究が飛躍的に進み、外核やマントル深部のマグマについての理解が大きく進むと考えられます。

用語説明

[用語1] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その利用者支援等は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

[用語2] 液体金属コア : 地球中心核(コア)は、固体金属でできた内核(深さ6,370 km~5,150 km)と液体金属でできた外核(液体金属コア、深さ5,150 km~2,890 km)の2層構造になっています。その外側を岩石でできたマントルと地殻が取り囲んでいます(下図を参照)。外核は、圧力136万気圧以上、温度約4,000度以上の極限条件下にあり、この液体金属の対流によって地球磁場が生じていると考えられています。
コアには、主成分である鉄の他に少量のニッケルと軽元素(候補は水素、炭素、酸素、珪素、硫黄)が含まれていると考えられていますが、詳細な化学組成は未だはっきりしていません。地球の誕生時に多くの水が運ばれてきた可能性があり、水素や酸素は有力な候補と考えられます。

地球中心核(コア)

[用語3] 衝撃圧縮実験[用語4] 静的圧縮実験 : 実験室内で超高圧を発生させる方法には、衝撃圧縮によるものと静的圧縮によるものの2種類があります。衝撃圧縮とは、火薬やレーザーなどを用いて、試料に一瞬だけ(典型的に100万分の1秒またはそれ以下)高圧と高温を同時に発生させる方法です。衝撃圧縮は非常に高い圧力を発生させることができますが、1)発生させる圧力と温度を自由に選ぶことができない、2)非常に短時間だけ超高圧高温を発生させるため原子の移動が間に合わず、試料が熱的化学的平衡状態になっていない可能性がある、3)試料温度の誤差がかなり大きい、などの問題があります。一方、本研究で用いた静的圧縮実験は、ある一定時間(本研究では10秒から100秒)高圧高温状態を保つことができ、上記のような問題は生じません。

[用語5] ダイヤモンドセル : ダイヤモンドを用いた小型の高圧発生装置(下図左)。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(下図右)。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料と圧力媒体を入れて2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生させます。ダイヤモンドアンビルを通してレーザーを試料に照射することにより、試料を高圧高温にします。さらに、ダイヤモンドを通して試料にX線を照射することにより、高圧高温下の試料の測定を行うことができます。

ダイヤモンドを用いた小型の高圧発生装置(左図)。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(右図)。

論文情報

掲載誌 :

Physical Review Letters

論文タイトル :

Equation of State of Liquid Iron under Extreme Conditions

著者 :

Yasuhiro Kuwayama*, Guillaume Morard, Yoichi Nakajima*, Kei Hirose*, Alfred Q. R. Baron, Saori I. Kawaguchi, Taku Tsuchiya, Daisuke Ishikawa, Naohisa Hirao, Yasuo Ohishi
*Corresponding author

DOI :

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May 11, 2020 at 10:07AM
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