自由な経済活動による成長と深刻さを増す環境問題への配慮のどちらを優先すべきか。現在の資本主義が直面するテーマは主流派経済学で論じるとどうなるのだろう。コロンビア大学の伊藤隆敏教授に聞いた。
伊藤隆敏氏(いとう・たかとし) 79年(昭54年)ハーバード大で博士号取得。一橋大教授、大蔵省(現財務省)副財務官、東大教授、政策大学院大学教授など経て、15年から現職。69歳
「個々人や各企業の努力だけではダメ」
――環境問題が深刻度を増しています。
「環境問題は典型的な『市場の失敗』だ。1970年代から経済学で議論されてきたテーマであり、実は経済学における正解もわかっている」
「環境は経済学でいう『公共財』にあたる。誰も所有権を持たず、みんな利用できるので、他の人の迷惑を顧みず自分の利益を優先する人が現れてしまう。こうした『タダ乗り』を防ぐためには個々人や各企業が努力してもダメで、全員が努力する必要がある。国などが規制で縛り、税金などでインセンティブを設け、市場メカニズムに組み込むしかない」
――対処方法が分かっているのに問題視されるのはなぜでしょう。
「温暖化が進み、地球上の各地で状況悪化が著しくなっているからだ。70年代に経済学が想定していたのは公害で、地域内の関係者で合意が得られれば対処のしようがあった。だが現在の地球規模の環境問題となると事態は一つの国にとどまらない。各国が利害を調整しなくてはならず、政治的な解決がどんどん難しくなっている。資本主義を持続可能なものとするためには政治が重要だ。国家間協調の枠組みが必要となる」
「技術革新で雇用代替、人はより生産的な職へ」
――ESG投資で環境配慮の企業行動を促せるとの意見があります。
「特定の企業や投資家が頑張っても地球温暖化は解決できない。環境負荷が大きいために敬遠されて割安な上場株式があるなら、そこに投資した方が投資収益が高まるとみる投資家だっている。環境配慮のムーブメントが全企業に波及すれば環境悪化を食い止められるとESG投資の支持者はいうが、楽観的すぎないだろうか」
――所得格差も資本主義の影の部分かもしれません。人工知能(AI)など中間層の仕事を奪い、格差が固定していくとの暗い予想もあります。
「技術革新は雇用を破壊するのではなく、代替する。これはAIに限ったことではなくて、これまでもそうだった。自動機織り機が登場したことで過酷な労働環境が改善された。仕事を機械に取って代わられた人はもっと生産的な職に移れる。移れない人のみ救済する仕組みがあれば、社会的にはプラスだ」
■記者はこう見る「経済学の『処方箋』、生かせる政治を」
竹内弘文
16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんの言動が国際的な関心を集める。国連での辛辣なスピーチは世界中で報じられた。ニュージーランドの20代議員が環境対策について演説中、ヤジを飛ばした年上議員に「ベビーブーマー世代は黙って」と皮肉っぽく言い返した動画も話題を呼んだ。次代を担う若者の怒り。環境問題は「世代間闘争」の様相を呈しつつある。
だが、伊藤氏が主張しているように経済学は数十年前から「市場の失敗」である環境問題の解決策を提示していた。政策で適切なインセンティブを設け、環境負荷軽減と効率的な資源配分を両立させる発想だ。地域での公害対策に一定の成果を生んだこのやり方を、地球温暖化にも適用するのが京都議定書やパリ協定となるはずだった。
だが、パリ協定から米国が離脱し、新興国の反発もあって結局、温暖化ガス排出ルールの具体的な内容を今なお策定できていない。持続的な環境、そして資本主義の未来を保つために、経済学の知恵を生かせる国際協調の仕組みが必要だ。
「逆境の資本主義」 1月1日連載スタート
日本経済新聞は1月1日、連載企画「逆境の資本主義」を始めます。約400年の資本主義の歴史を振り返りつつ、その未来を考えます。様々な課題に直面する資本主義の処方箋を探るべく、取材班は世界各地に足を運びました。専門家へのインタビューや豊富なデータ、現場の映像を交えて、資本主義の行方を探っていきます。
▼連載開始に先行してインタビュー記事を公開しています。
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December 30, 2019
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