なぜ日本企業であるIPSがフィリピン市場を“攻略”できたのか――。同社の代表取締役を務める宮下幸治氏は次のように語る。「日本で通信が自由化してから、どういう会社が生き残ったかを体で覚えている。そこは圧倒的に有利だと思う」
アイ・ピー・エス(IPS) 代表取締役 宮下幸治氏
音声からの脱却宮下氏はリクルート出身。リクルートは1985年の通信自由化をきっかけに通信事業に参入している(現在は事業部が独立・分社化)。宮下氏はその時の経験をもとに起業。海外人材を日本企業に紹介する事業に加え、国際デジタル通信(現ソフトバンク)の代理店としてIPSをスタートした。
その後、特別第2種電気通信事業者を取得し、在日外国人向けにプリペイドカードを販売するなどサービスを拡充しながら事業を続けていた。
しかし、2003年に転機を迎える。無料のインターネット電話ツール「Skype」が登場し、外国人向け通話事業が「ジリ貧」に追い込まれたのだ。インターネットの速度や安定性に問題があったフィリピンでは、Skypeが急速に普及したわけではないが、将来的に事業が成りたたなくなることは明白だった。
窮地に陥った宮下氏は、次の商機としてブロードバンドサービスに着目する。逆境を生み出した張本人だ。フィリピンは高い経済成長率を維持しており、平均年齢も24歳。ブロードバンドサービスへのニーズは今後さらに大きくなる。
とはいっても日本の企業であるIPSがフィリピン国内で通信事業を営むのは難しい。そこで宮下氏はまず2012年、フィリピンと香港・北米を結ぶ国際通信回線ビジネスに参入する。ポケベルに過剰投資して民事再生法の適用を受けていたフィリピンのISPであるPT&Tと業務提携。主にCATV事業者向けに海底ケーブルを用いた国際データ通信回線を提供し、対価を得るサービスを開始した(図表1)。
図表1 IPS参入によるブロードバンドサービス提供の流れ[画像をクリックで拡大]
結果として、「これが大きく当たった」と宮下氏は振り返る。
フィリピンの通信市場は実質、大手通信事業者のPLDTとGlobeによる寡占となっている。CATV事業者はラストワンマイルの回線は自前で構築しているが、それ以降のネットワークについては大手2社から調達せざるを得ず、しかも大手2社にとってCATV事業者は競合でもある。このため価格が高止まりしていただけではなく、品質にも問題があった。そうしたなか、IPSはフィリピンのCATV事業者に新たな選択肢を提供した。
これにより、CATV事業者のユーザーは、より品質の高いブロードバンドサービスをより安い料金で利用可能になった。「2015年ごろにはCATV事業者の収支において、ブロードバンドサービスがCATVの有料視聴料を超えて半分以上を占めるようになっていた」と宮下氏は語る。
ネットフリックスなどグローバルな動画配信サービスとのコンテンツ勝負に危機感を抱いていたCATV事業者にとっては“渡りに船”だったのだ。
月刊テレコミュニケーション2020年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)
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April 01, 2020 at 11:00AM
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